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プロローグ -- 本編 12 ・ 3
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         番外編 1
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「まぁ、ね。何でこうも毎回毎回……、あれ?」
そう愚痴を言おうとしたその時、正門の方から歩いてくる人影が見えた。
あの藤色の髪は、ウィーだろうか。その様子はいつもの彼女には似つかわしくなく慌てているようだ。
こうも珍しいことが多いと、何だか不安になってくる。気のせいであって欲しいけれど。

彼女がドアを開けて入ってきた。
初秋特有の少し生暖かいとも、涼しいとも言える風が私の髪を揺らす。
今日はいつもと比べて風が少し強いようだ。
少し湿っぽい感じもするし、明日は雨が降るかもしれない。
別段暑くはない気候なのに、ウィーは少し汗を掻いている。
この様子だと診療所の方から走ってきたのだろう。
彼女は私たちを見つけると、照れたようにはにかみながら、近づいて来た。

「……はぁ、は、こ、こんにちは。メル、ミルミア。こんなところで何をしてるの?」

「ちょっと例の件で駄弁ってたの。
あ、もしかして、ウィーが珍しく焦ってこっちまで来たのも、実はその件だったりする?」

思い付きだったのだが、図星だったようで顔を赤らめている。
例の件と焦ってたことのどちらが当たったかはわからないが、
照れてるとこを見ると、焦ってた方みたいだ。もぅ、愛いやつめ。
まだ汗は引いていないが、息のほうは随分整ってきたようだ。
ハンカチで汗を拭きながら話し始めた。

「ん、そうなの。ねぇ、どっちかリルグ見かけてないかな?」

「……リルグ?」私たちの会話をいつもの無表情で眺めていたミルミアが口を開いた。
あ、そうか。まだミルミアには話してなかったっけ。

「リドが拾ってきたやつよ。さっき話してた」それを聞くと彼女はうなずき、また聴講者に戻ったようだ。
置物モードに移行しますってアナウンスが聞こえてきそうな切り替えの早さ。
むむ、見習いたいような見習いたくないような。

「うん、その子。昼ご飯持っていったら部屋に居なくてね。
まだ怪我も治ってないのにで歩いてちゃ体に悪いでしょう?
だから、急いで探してるってワケ。それで、どっちか見かけた?」

「いや、今日はまだ見てないよ。……って、抜け出したっていっても、
あいつ行くあてあんの?記憶もあやふやだって聞いたけど」

そうなのだ。今回リドが拾ってきた客人(そういう扱いらしい)は、
今までと毛色の違うやつなのである。
まず、記憶がない。だから、故郷に返してあげて、ハイお終いってわけにもいかない。
非常に面倒なのだ。歳もわからないが、まぁそれはどうでも良いか。
そして、髪が黒い。私たちのいるこの世界では、黒髪は滅多にいるものではなく、
私みたいに桜色だとか、リドの空色、ウィーの藤色みたいな方が普通なのだ。
そのせいもあって、黒髪の子どもは忌み子として扱われる地域もあるらしい。
ま、別にうちの地域じゃ気にもされないけど。

で、私としては一番重要な点なんだけど、戦えないの。彼。
リドにいっつも口をすっぱくして言ってきた、拾ってくる条件
「最低でも自分の身を守れる程度の実力を持っていること」
又は「何かしらギルドに貢献できる能力を持っていること」のどちらにも該当してない。
魔具も持ってない、武器を持たせても人並み以下。
リドの人の見る目は疑っていなかったんだけど、今回はどうしちゃったのかな。
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